COLUMN

保険外サービス・新規事業

介護の自費サービス・新規事業の始め方|保険外で収益を伸ばすアイデアと介護旅行の開業ガイド

「介護報酬だけに頼る経営に不安がある」「利用者さんのやりたいことを、保険の枠では叶えられない」。こうした思いから、介護保険外(自費)サービスや新規事業を検討する介護事業者が増えています。

結論を先にお伝えすると、介護事業者の保険外サービスは「今ある人・車・信頼関係を活かせるもの」から小さく始めるのが成功の近道です。なかでも外出・旅行の支援は、介護の専門性がそのまま価値になる分野です。

この記事では、保険外サービスの基本ルール、事業アイデア、始め方の手順、そして介護旅行を開業する場合に必要なことを解説します。

介護保険外(自費)サービスとは

介護保険外サービスとは、介護保険の給付対象にならず、利用者が全額を自己負担するサービスのことです。「自費サービス」「保険外サービス」とも呼ばれます。

項目介護保険サービス保険外サービス
料金介護報酬で決まる(自己負担は原則一割〜三割)事業者が自由に設定、全額自己負担
対象者要介護・要支援認定を受けた方認定の有無を問わない
内容基準で定められた範囲利用者の希望に合わせて自由に設計
報酬改定の影響受ける受けにくい

国も保険外サービスの活用を後押ししており、厚生労働省・経済産業省・農林水産省は2016年に「保険外サービス活用ガイドブック」を発行しています。また、日本総合研究所がまとめた調査では、ケアマネジャーの約9割が「自費サービスに関する情報提供を求められた経験がある」と回答しています。利用者側のニーズは、すでに現場にあるといえます。

保険サービスと組み合わせるときのルール

介護事業所が保険外サービスを提供するときに最も注意したいのが、保険サービスとの組み合わせ方です。厚生労働省は、一定のルールの下で両者を組み合わせることを認めており、その基本として次の点を示しています。

  • 保険サービスと保険外サービスを明確に区分すること
  • 保険外サービスの内容や料金を事前に説明し、同意を得ること

あわせて、契約書や記録を分ける、会計を区分する、ケアマネジャーに情報を共有するといった対応が必要です。2018年9月には、訪問介護や通所介護と保険外サービスを組み合わせる場合の取り扱いを整理した通知も出されています。具体的な運用は保険者(市町村)によって異なることがあるため、始める前に指定権者へ確認しておくと安心です。

介護事業者が始めやすい保険外サービスのアイデア

サービス活かせる資源初期投資の目安利用者にとっての価値
外出・旅行の同行介護職・リハ職、送迎車中(旅行業登録や提携が必要な場合あり)諦めていた旅や冠婚葬祭への参加
買い物・通院の付き添い介護職小家族の負担軽減、自分で選ぶ楽しみ
自費リハビリ理学療法士・作業療法士小〜中保険の上限を超えたリハビリ
家事代行・見守り介護職小同居家族の分も含めた支援
配食・お弁当厨房設備中食事の確保と安否確認
理美容・イベント提携先、事業所のスペース小楽しみと社会参加

この中でも、外出・旅行の同行は、介護の専門職でなければ提供しにくい価値です。一般の旅行会社では対応が難しい「車いすでの旅」「入浴や排泄の介助が必要な旅」を実現できるため、他社との差もつきやすくなります。

保険外の新規事業を始める5ステップ

  1. ニーズを集める:利用者やご家族の「本当はこうしたい」を聞き取ります。「故郷に帰りたい」「孫の結婚式に出たい」など、現場の職員はすでにたくさんの声を知っています。
  2. 自社の資源と照らし合わせる:職員の資格、車両、営業時間外の設備など、使えるものを洗い出します。
  3. 小さく試す:いきなり大きく始めず、既存の利用者向けに1回実施して、反応と課題を確かめます。
  4. 料金と契約を整える:人件費と実費を積み上げて料金を決め、重要事項説明書と契約書を用意します。キャンセル規定も忘れずに。
  5. 法令を確認して発信する:必要な許可・登録を確認したうえで、ケアマネジャーやご家族に周知します。

介護旅行を開業するには?必要なことと注意点

旅行業の登録が必要になるケース

宿泊や交通を手配し、旅行者から対価を受け取って旅行を企画・販売する場合は、旅行業法に基づく登録が必要です。旅行業には第1種・第2種・第3種・地域限定の区分があり、扱える旅行の範囲と要件が異なります。

区分募集型企画旅行(ツアーを作って参加者を募る)基準資産額
第1種海外・国内とも可3,000万円
第2種国内のみ可700万円
第3種営業所のある市町村とその隣接市町村などに限る300万円
地域限定営業所のある市町村とその隣接市町村などに限る100万円

このほか、営業保証金の供託(または旅行業協会への弁済業務保証金分担金の納付)と、営業所ごとに旅行業務取扱管理者を1名以上選任することが求められます。登録先は、第1種が観光庁長官、それ以外は主たる営業所のある都道府県知事です。詳しくは各都道府県の旅行業担当窓口で確認してください。

移動手段の確保

事業所の送迎車を使って有償で利用者を運ぶ場合、道路運送法上の許可が必要になることがあります。介護タクシーや貸切バス事業者への手配、公共交通機関の利用など、法令に沿った移動手段を設計しましょう。

同行する人材の育成

介護旅行では、介護技術に加えて「旅を楽しんでもらう力」と「旅程を管理する力」が求められます。民間資格のトラベルヘルパーや旅行介助士を取得する方法もあります。(詳しくは関連記事「トラベルヘルパー・旅行介助士とは?」)

保険と緊急時の体制

旅行業者向けの賠償責任保険、参加者の国内旅行傷害保険、旅行先での医療機関の把握など、万一のときの備えが欠かせません。(関連記事「高齢者の旅行・外出の注意点」)

自社で登録するか、提携するか

旅行業の登録には資産要件や有資格者が必要なため、すべての介護事業者が自社で登録するのは現実的ではありません。旅行業の登録を持ち、介護旅行の実績がある事業者と提携すると、初期の負担を抑えて始められます。

事例:デイサービスから生まれた旅行事業「トラベルwithじぇぷと」

愛知県豊田市でリハビリデイサービスや訪問看護ステーションを運営する合同会社P-BEANSは、一人の利用者の旅行支援をきっかけに、旅行事業を段階的に育ててきました。

時期出来事
2017年5月旅行サービスを立ち上げ
2018年8月第3種旅行業を取得
2022年2月「トラベルwithじぇぷと」に名称変更
2022年10月第2種旅行業へ移行(愛知県知事登録旅行業2-1449号)

2023年の取材記事によれば、専任スタッフは3名(理学療法士、作業療法士、事務員)で、いずれも旅行業務取扱管理者の資格を持っています。新人スタッフには入職時に旅行の同行研修を行い、デイサービスなどと兼務しながら誰でも同行できる体制をつくっています。旅行は月に10〜15件、参加者は月に平均80〜100名ほどと紹介されています。【要確認:最新の体制と実績】

この事例から分かるのは、介護旅行を「別事業」として切り離すのではなく、デイサービスの職員と利用者との関係の延長線上に置いていることです。だからこそ、旅行がデイサービスの差別化や職員のやりがいにもつながっています。

保険外事業で失敗しやすいポイント

  • 料金を安くしすぎる:「保険の自己負担と比べて高い」と遠慮して価格を下げると、人件費を回収できません。
  • 現場に丸投げする:本業の合間では続きません。担当者と業務時間を確保しましょう。
  • 法令確認を後回しにする:旅行業法や道路運送法など、介護以外の法令が関わる分野は特に注意が必要です。
  • 継続できる仕組みがない:一度きりのイベントで終わると、収益にも差別化にもなりません。

保険外サービスの料金の決め方

保険外サービスの料金は事業者が自由に決められますが、根拠のない料金設定は赤字や利用者の不信感につながります。次の3つの視点で決めましょう。

  1. 原価から考える:担当職員の人件費(時給換算)、移動の実費、準備や事務にかかる時間、保険料などを積み上げ、最低限必要な金額を出します。見落としやすいのは、当日以外の準備時間と事務作業です。
  2. 相場から考える:同じ地域・同じ種類のサービスの料金を調べます。介護旅行の付き添いであれば、日帰り8時間で2万〜4万円台を目安とする事業者が多いようです。
  3. 価値から考える:ご本人やご家族にとって、そのサービスでしか得られない価値は何かを考えます。「家族だけでは叶わなかった旅」の価値は、単なる作業時間では測れません。

そのうえで、延長料金、キャンセル料、同行スタッフの交通費・宿泊費の扱いを明記し、重要事項説明書で事前に説明します。

保険外サービスを始める前のチェックリスト

  • □ 保険サービスとの区分(時間、職員、記録、会計)を決めた
  • □ 重要事項説明書と契約書を用意した
  • □ 料金表(延長料金・キャンセル料を含む)を作った
  • □ 必要な許可・登録(旅行業、道路運送など)を確認した
  • □ 賠償責任保険などの補償範囲を確認した
  • □ 担当者と業務時間を決めた
  • □ 指定権者(市町村など)へ運用を確認した
  • □ ケアマネジャーへの説明資料を作った

ケアマネジャー・ご家族への伝え方

保険外サービスは、伝え方を間違えると「売り込み」と受け取られることがあります。大切なのは、ご本人の願いを叶える手段の一つとして提案することです。

  • ケアマネジャーには、「保険サービスでは対応できないご本人の希望に、こういう形で応えられます」と、ケアプランを補う選択肢として伝えます。
  • ご家族には、料金だけでなく「何ができるようになるか」「ご家族の負担がどう変わるか」を具体的に伝えます。
  • 利用を無理に勧めず、断りやすい雰囲気をつくることも信頼につながります。

旅行のような体験型のサービスは、実際の写真や参加者の声があると伝わりやすくなります。最初の数回は、記録と写真(掲載同意を得たもの)を丁寧に残しておきましょう。

よくある質問

Q. 介護旅行はどのくらいの料金が一般的ですか?
A. 旅行の実費に加えて、同行スタッフの付き添い料金と旅費がかかるのが一般的です。付き添い料金は介助の内容や時間で変わり、日帰りで8時間前後なら2万〜4万円台を目安とする事業者が多いようです。

Q. 旅行業の登録がなくても介護旅行はできますか?
A. 宿や交通の手配を含めて対価を得る場合は、登録が必要になるのが一般的です。登録を持つ旅行事業者と提携する方法もあります。判断が難しい場合は、都道府県の旅行業担当窓口に確認してください。

Q. 小規模な事業所でも保険外サービスは始められますか?
A. 始められます。利用者との距離が近い小規模事業所は、一人ひとりの希望に合わせたサービスを設計しやすいという強みがあります。

まとめ

介護事業者の保険外サービスは、報酬改定に左右されにくい収益源であると同時に、利用者の「やりたいこと」を叶える手段です。保険サービスとの区分と事前の説明・同意という基本を守り、今ある資源を活かして小さく始めましょう。

介護旅行は、法令や人材のハードルがある一方で、介護の専門性が最も活きる分野です。自社だけで抱えず、実績のある事業者との提携も含めて検討してみてください。

参考:内閣府 規制改革推進会議資料(厚生労働省)、日本総合研究所、兵庫県 旅行業の概要、岡山県 旅行業登録の種類、リハノワ取材記事、日本通所ケア研究会

コラム一覧へ戻る